物の質感とその見立て

さて、印刷には、「孔版印刷」や「シルク印刷」、「版画」のように“ズレ”を楽しめるものもあります。通常は「見当を合わせる」といって版がずれないよう紙の所定の位置にレジスターマークを印刷し調整をするのですが、あえて少しずらし「ヘタさ」を出す。これが最近、どうも巷でうけている気配が感じられます。なぜだろうと考え、よくよくまわりを見回してみると、人工物のほとんどが精密に精巧にズレもなく作られているではありませんか。物を作る上で品質の向上を求められた結果だと思いますが何かそういうものに囲まれていると妙に落ち着かない感覚もあります。GPS機能付の時計は誤差10万年に1秒という高精度。その上AI(人工知能)がらみの製品が出てきたら人間の出る幕はありません。そういうものと少し距離を置きたい人たちがズレや間を求めているのでしょうか。この間行った高松某FLAGのインテリアショップをのぞき込んでみると、ビンテージライクな商品で埋め尽くされていました。一昔まえでは裏路地にある店にしか置いてないような物を割と表向き(?)なところにも置きだしたのです。ところで、デジタルツールが溢れ、紙の媒体が無くなる(減る)と予測されてからもうずいぶんと経ちますが、予想に反して紙はその特性が際立ち、逆に紙の価値が上がっているようにも思われます。以下は戸田ツトム氏の言葉ですが、「紙は存在していながら、白紙、余白……と、非存在をも演じてしまう。紙には重力にしたがうことも、余白として重力から離れて消えることもできる。文字を書き留めることも、燃えることも、とすさまじく変身する。水墨画などの世界では、余白のことを「要白」「無描所」と言うらしい。」どの電子リーダーも、ビューアーのめくりも、まだまだ全然紙の動き、質感に追いついていません。今回添付した画像は、戸田ツトム氏らにより実際にアップルにプレゼンテーションされたMacOSのグラフィカル・ユーザー・インターフェイスです。デスクトップに現れるグラフィックを小さな“紙片”として扱い、鉛筆で書いたようなザラッとした質感に仕立てています。アラン・ケイがゼロックス社時代に提唱した理想のパーソナルコンピューター「ダイナブック」はその名の通り最初から「本」を目指していました。それを大いに参考にしたスティーブ・ジョブズがLisa,Macintoshを開発し、それらのインターフェイスに「カード、シート、ファイル、フォルダ、ゴミ箱」と名付け、「デスクトップ」上で重ねて動かしたり、トイレットペーパーの様に「スクロール」させました。これらのツールは全て「紙」を見立てたものでした。
竹内

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OS8.6用に制作された「drawing board]

熟成された好みの強み

非常になめらかな質感のものとざっくりした粗い風合いものとを比べれば、後者の方が好きです。たとえば「粗挽き胡椒」。食感や薫り、辛味にパンチがあり、なかなか旨い。豆腐もなめらかな「絹ごし」よりも「木綿」の方がやはり旨いと思います。時計もアナログ式よりデジタル式の方が時間を“カウント”している感覚がヴィジュアル的に面白い。(映画の時限爆弾がアナログ式なら危機迫るドキドキ感は半減しますよね)サッカーも南米の上手く細やかなボールタッチの個人技が光るスタイルや、ドイツのシステマティックなゲームも好きですが、「とりあえず前線に放り込んでおけ」的なイングランドのサッカーがステキです。ラグビーのオールブラックス(ニュージーランド代表)が国際試合の前に舞う土着民の「ハカ(war cry )」ダンスの荒々しさにはいつも圧倒させられます。
さて、液晶ディスプレイの世界も高解像度でシャープな美しい映像を表示させることができる「4Kディスプレイ」への発展など、目を見張る技術革新が進んでいますが、「Forever21」がイベントで披露した低解像度スクリーンはどんな精細できめの細かいデジタルスクリーンよりもざっくりした風合いで存在感を示しました。このスクリーン、よく見ると有機発光ダイオードやLEDではなく、モーターで駆動されるカラフルな「布」を使用しているのです。解像度はわずか80×80ピクセルながら驚くなかれ、6400個の糸巻き、11kmの長さの布、そして何千ものモーターやギアで構成されいます。この糸巻きスクリーン、イベントではInstagramの写真をアップロードするとその画像がうつしだされ、ローテクながらちゃっかりウェブと連動しているところがミソ。「BREAK FAST」というクリエイティブ集団によるものですが、彼らの仕事は彼らの「好み」から発しているものです。「好き」=「数寄」。茶の湯の文化を花咲かせた近世のトップクリエイター、千利休や古田織部は「数寄者」でもありました。好みを共有し合い、競争し合い、熟成させていく。巷にあふれるウェブサイトやSNSも程度の差こそあれそのような風潮にありそれらを求める輩がうごめいています。
ちなみにForever21は衣料ブランドメーカーなので「糸+布」のコンセプトなのでしょう。アイデアもシンプルでよろしい。
竹内

会社案内におけるイメージ

印刷において「会社案内」を依頼されることがありますが、今回はその「型」や「仕様」はさておき、「コンセプト」に注目したいと思います。会社案内は営業マンが顧客に配るツールとして会社の「製品案内」としての役割や、「事業案内」としての役割があり、いずれも会社の内容を具体的に説明するツールであるのが一般的だと思います。そんな会社案内の中でも「企業イメージ」をコンセプトに作られたモノもあります。何をしている会社なのか?を具体的に語るのではなく、イメージによって「何となく伝える」のです。具体的にモノやコトを伝えるのとは対照的ですが、イメージは脳裏に焼き付きます。ヴィジュアルは強いメッセージ性を含んでいるのです。アメリカの「自由の女神」もアメリカの自由と民主主義の象徴です。像はローマ神話における自由の女神「リーベルタース」を表し、右手にはたいまつを空高く掲げ左手には独立記念日である1776年7月4日と刻印された板を持ち、足元にあるちぎられた鎖を踏みつけています。女神自体のデザインはドラクロワの「民衆を導く自由の女神」をモデルにしています。これだけの意味を凝縮し像は表現されているのです。東京五輪でも話題のエンブレムは思っている以上に重要な意味を持ち、五輪の開催の明暗を分けるプロジェクトであると考えられます。さて、その伝え方のひとつに「デモンストレーション」という手法がありますが、興味ある動画を見つけました。安川電機の「ロボット」のデモンストレーション動画は具体的な説明よりもはるかにつよいインパクトを世界に発信しました。
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出版物の気になる動向

世間はもう、ゴールデンウィークです。正確には「大型連休」というらしいですが、(ゴールデンウィークは映画会社がつくった和製英語)休みを利用しての旅行や里帰りなど多いでしょうね。季節は初夏ですが春分と夏至の中間にあたる「立夏」です。年間通して過ごしやすい香川県でも特に気持ちのいい季節です。
さて、気になる印刷・紙媒体の動向ですが、2015年の出版物(書籍・雑誌合計)の推定販売金額は前年比5.3%減の1兆5220億円となりました。(出版科学研究所)中でも目立つのが雑誌市場の衰退で同8.4%減の7801億円になりました。特に週刊誌は同13.6%減の過去最大の落ち込みに。インターネットやスマートフォンの急速な普及で情報を得るスピードが格段に速くなり、速報性を重視した週刊誌はさらに厳しい状況になっています。書籍は1.7%減に止まり14年に対して小幅な落ち込みになりました。一番の原動力は又吉直樹氏の「火花」。累計240万部の大ヒットを記録し15年のミリオンセラーに。又吉氏つてに広がった文芸書もヒットするなど書籍全体の販売増にもつながりました。
対して、電子出版市場は1502億円の前年比31.3%増になりました。テキストものの「電子書籍」が同18.8%増の228億円、「電子コミック」が同30.3%増の1149億円、「電子雑誌」が同78.6%増の125億円となりました。電子コミックの売り上げが上がっているのはスマホの普及や日本ならではのコミック文化の影響もあるのでしょうが、電子の伸び率は非常に高いところをキープしています。また、米国においては「2015年までに電子書籍は印刷本を超える」と多くのアナリストが予言していましたが、現在ではデジタルの売上が急速に鈍化しているようです。電子書籍に飛びついた人の多くが紙の本に戻りつつあるというのです。しかし依然として上昇傾向にある電子書籍は「一時停止」しているに過ぎないのかもしれません。
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趣味指向はごっちゃに。

2016年もはや4月、弊社の桜も満開になりました。先日の「選抜高校野球大会」では高松商業が見事な古豪復活ぶりを見せ、準優勝に輝きました。球児たち、地元ではモテモテで大変なことになっているみたいですよ。さて、前回の「お酒」つながりで気になる記事がありました。「清酒メーカー最大手の白鶴酒造(神戸市東灘区)が3月、米作りから醸造まで自社で一貫生産した新酒の販売を始めた。高齢化が進む契約農家にメーカーの人気が集中し安定供給に不安が出てきたためだ。」とありました。近年では純米吟醸などの高級酒人気が国内外で続き、酒米の最高峰とされる兵庫県産の山田錦が各地のメーカーに引っ張りだことなっているらしいのです。これは時代の流れというよりも、日本や欧米の社会全体が成熟化しているからではと勝手に推測します。話は変わりますが、雑誌関係の発行部数はピーク時にくらべると激減しています。でも書店に足を運ぶとそのような印象を受けないのはなぜでしょうか?原因のひとつとして「多様化」と先ほどの「高級指向」にあると勝手に推測します。様々な種類があることや、デザインや印刷が非常に凝った造りになっていて目を引いてしまうのでしょうね。さて、印刷の方も活版印刷で名刺をするなどの少しアナログな高級指向が目立っています。デジタルに反撥するアナログ指向です。私自身も本などは液晶画面では少し読む気が失せる気がします。液晶スクリーンではページをめくる感覚、紙を触る感覚、視覚などまだまだ紙にはかなわないのが現状でしょう。実際の電子書籍の売り上げは全体の数パーセントに過ぎないらしいですが今後の動向が気になるところでしょう。しかし電子が着実に伸びているのは事実で多くの企業がそのための工夫を模索しているように思われます。
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本社に咲いた桜

モノに宿る「カタ」と「チ」

こんにちは。T.P.LABO竹内です。まずは、高松商業、小豆島高校の春のセンバツ出場おめでとうございます。高松商業は明治神宮野球大会で11月に全国制覇しているので期待大ですね。小豆島高校も21世紀枠での出場は春・夏通じて初めての甲子園です。香川県から2校出場は県民からしてみればすばらしいことだと思います。快挙です。ついでに二校で甲子園で決勝戦をしてさらなる歴史を刻んでほしいです。
さて、日本酒のメーカー様関係の仕事をレギュラーでさせていただいているのですが、日本酒はブームらしいですね。日本のみならずアメリカを中心にヨーロッパなどの外国でも人気らしいです。仕事柄気になるのはパッケージのデザイン。中でもお気に入りは「剣菱(ケンビシ)」です。江戸時代からほとんど変わらない剣菱酒造のロゴマークは上部は男性、下部は女性の象徴とされ、飲むことでめでたい兆しを感じ、さらにマークの霊気と酒魂によって衰えた勢いを盛り返し、奮起して家運繁昌をなすと言い伝えられているそうです。最近よくある、カッコウ付けたデザインにはない「意味」のあるカタチ。杉浦康平さんはカタチを「カタ」と「チ」に分けました。カタは「形(形代・形式)」や「象(象形・気象)」や「型(原型・字型)」、チは「イノチ(命)」や「チカラ(力)」、「ミズチ(螭)」。二つが組み合わさってカタチが誕生するのです。それらは人々を驚かし、鼓舞するマジカルでトリッキーなものだったはずです。世の中に氾濫するウェブのカット&ペーストや何となく感覚的なものの表現よりもこういった「意味」や「物語」の創作というものが重要なのではと思う今日このごろです。

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江戸時代からほとんど変わらないラベル

また会おう。Ziggy。

「2016年1月10日。グラムロックの帝王である、デビッド・ボウイが癌のため死去。」

「ジギー・スターダスト」を擦り切れるぐらい聴いておりましたT.P.laboの十河と申します。

デビッド・ボウイが亡くなった事で、直前に発表されたアルバム「★Black star」はCDアルバムチャート、iTunesダウンロードチャートの1位を独占したようです。今でこそ音楽をダウンロードして聴くことが当たり前になっておりますが、やはりCDを聴きながらブックレットを隅々まで見渡すことで、音楽だけでは伝わらない、アーティストやデザイナー達のアルバムに込めた想いを少しでも感じ取る事ができると思っております。

私の熱心なファンである皆様はご存知かと思いますが、そうなんです。世の中に存在する印刷物の中で、私が一番好きなのはCDのブックレットなのです。
ただ単純にブックレットのアートワークが好きなだけではございません。紙の種類であったり、特殊な加工をしていたりと、じっくり観察してみると中々に興味深い発見ができます。

そして今回は数あるCDアルバムの中から、私が印刷に深く興味を持つきっかけになったブックレットをご紹介いたします。

 

Before Today「A Celebration of an Ending」2004
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アメリカはカリフォルニア州サンディエゴ出身のアーティストです。現在は名前をPierce the veilに変えて活動しています。

piercetheveil.net/

このブックレットの魅力は、アーティスティックなアートワークはもちろんですが、何より折り加工が「階段折り」仕様になっている点です。
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CDのブックレットで使用される加工では、二つ折りや外三つ折り、中三つ折りが多くを占めています。
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階段折り加工の印刷物はデパートや展示会のパンフレットによく使われていますが、CDのブックレットに使われているものはほとんど見かけることがございません。アートワークだけではなく、印刷加工もあわせて表現するPete Chiltonを皆様ぜひ知っていただきたい。

http://peterchilton.com

CDが売れなくなってしまった時代だからこそ、音楽だけを楽しむのはもったいない。ブックレットと共にアーティストやデザイナー達の想いをくみ取ってみてはいかがだろうか。そして印刷という人間の叡智に興味を傾けてみてはどうだろうか。
つまるところ、ダウンロードじゃなくて、CD買いなさい!!でございます。お粗末様でした。

T.P.labo OPEN!

あけまして、おめでとうございます。T.P.LABOの竹内です。

ホームページやっとたちあがりましたね。とにかくほっとしました。さて、この「T.P.LABO」とはなんぞや?ということですけれど、正直はっきりした決まりはありません!(笑)(そんな自信満々に言われても…)とにかく「Taiyo Printing Laboratory」の略なのです。「太陽印刷研究所?」「太陽印刷の印刷研究所?」「太陽の印刷研究所?」日本語の言い回しによっては内容が変わってきます。

「いやよ、して」と「いや、よして」と句読点の位置によりまったく意味合いが変わるのと同じなのです(違うやろ!)それはそれとして、印刷というものはグーテンベルクの印刷術により今日の社会にもっとも影響を与えたもののひとつだと思いますが(それ以降人類は知識の巨人の肩に乗り時代を超え新たな高みを目指し続けている)だからこそ「印刷」というものにこだわろうということなのです。

特にT.P.LABOではオンデマンド印刷や孔版印刷で何ができるのかを軸にそれに付随するデザインのことやDTPの情報などを書き込んでいきたいと思います。

では2016年も良い年になるよう…。

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1568年に描かれた印刷所の様子。一時間に240枚を印刷することができた。